―株価より利益の成長を見るということ―
はじめに
第23話では、私は「リスクを取らない」のではなく、「取るリスクを選ぶ」ようになったと書きました。
技術や事業を十分に理解しないまま、価格が上がっているという理由で投資する。
そのような投資家は、相場が上昇している間は強気でいられます。
しかし、価格が下がり始めると、急に不安になります。
自分が何を買ったのか、どのような条件が崩れたら売るべきなのか。それが見えていないからです。
私は多くの投資案件で失敗した経験から、
何に投資するのか。
どれだけ投資するのか。
どのくらいの時間軸で投資するのか。
そして、何が起きたら、自分の考えが間違っていたと判断するのか。
それを自分で考えられる投資をするようになった、という話でした。
では、実際に企業の何を見て、投資先を選んでいるのでしょうか。
株価が安いから買うのか。
有名な企業だから買うのか。
PERが低いから買うのか。
私が重視するようになったのは、現在の株価そのものよりも、その企業の利益が今後どこまで成長する可能性があるかということでした。
ただし、最近の自分の投資を振り返ると、もう一つ考えなければならないことがあります。
企業を分析し、利益の成長を考えていれば、Hypeに巻き込まれることはないのでしょうか。
私は何も考えずに買ったわけではありません。
それでも私は、熱狂の中にいたのだと思います。
株価が高いだけでは、割高とは限らない
投資を始めた頃の私は、株価の数字そのものに目を向けがちでした。
100ドルの株より、10ドルの株の方が安く見える。
以前より大きく上昇した株は、もう高すぎるように感じる。
反対に、大きく下がった株は、割安になったように感じる。
しかし、株価の数字だけを比べても、企業が割安か割高かは分かりません。
発行されている株式数が違えば、株価が示す意味も異なります。
企業の規模を見るには、株価だけでなく、時価総額を確認する必要があります。
さらに、現在の時価総額だけでも十分ではありません。
その企業の売上や利益は今後どこまで伸びるのか。
利益が増えたとき、市場からどの程度の評価を受ける可能性があるのか。
現在の株価は、その成長をどこまで織り込んでいるのか。
私は次第に、株価の高い、安いではなく、
今後の利益成長に対して、現在の時価総額はどの水準にあるのか
を考えるようになりました。
「AIが成長する」だけでは足りない
もっとも、利益の成長を考えるといっても、単に「AI市場が伸びる」と考えるだけでは足りません。
AIが成長したとき、どこに新しい需要が生まれるのか。
GPUなのか。
メモリなのか。
ネットワークなのか。
光通信なのか。
電力なのか。
冷却なのか。
そして、その需要が本当に企業の売上と利益につながるのか。
私は、こうした構造を考えるようになりました。
この考え方については、第21話「私は『儲かる話』ではなく、『儲かる構造』を見るようになった」でも書きました。
また、AIインフラの成長に伴ってボトルネックがどのように移動していくのかについては、第17話「AI半導体の次のボトルネックはどこか」で取り上げています。
市場が成長するという話だけでなく、その成長によって、
誰の売上が増えるのか。
なぜ利益が増えるのか。
その利益成長はどのくらい続くのか。
そこまで考えて、初めて投資先を比較できるようになります。
CRDOには、まだ爆発力があると考えました
私が注目した企業の一つが、Credo Technology、CRDOです。
AIデータセンターの規模が拡大すれば、GPUなどの計算能力だけでなく、膨大なデータを高速でやり取りする通信技術も重要になります。
計算能力が高まるほど、データを運ぶ部分がボトルネックになる可能性があるからです。
私は、CRDOの事業内容や成長性を確認し、MarvellやAstera LabsなどのAIインフラ関連企業とも比較しました。
それぞれの時価総額や市場での位置づけを比較した結果、CRDOにはまだ大きな成長余地があると判断しました。
そこで、まずCRDOを少量購入しました。
その後、株価は最初に購入したときから約4割上昇しました。
そして私は、その時点でさらに買い増しました。
しかも、追加した株数は、最初に購入した株数より多いものでした。
価格と購入数量の変化だけを見れば、高値を追いかけたようにも見えます。
実際、そういう面はあったと思います。
何も考えずに買ったわけではありません
ただ、株価が上がっているのを見て、何も考えずに飛び乗ったわけではありません。
CRDOの事業成長を考えました。
AIインフラ市場の中で、高速通信が担う役割を考えました。
MarvellやAstera Labs、それぞれの時価総額や市場での位置づけを比較した結果、CRDOは今後の売上と利益の伸びによって、時価総額がさらに拡大する余地があると判断しました。
私が「爆発力がある」と考えたのは、この利益成長と時価総額の拡大余地が大きいと見たからです。
さらに、私は25日移動平均線、75日移動平均線、MACD、RSIも確認しています。
CRDOを追加購入したときも、これらの指標を確認したうえで判断しました。
したがって、自分の中には、購入するための合理的な理由がありました。
AI関連だから。
株価が上がっているから。
周囲が注目しているから。
それだけで買ったわけではありません。
しかし、ここで一つの疑問が生まれます。
合理的な理由があれば、それは熱狂ではないのでしょうか。
比較対象もHypeの中にいるかもしれない
同じ市場に属する企業の時価総額や売上成長率、利益率、競争力を比較することは重要です。
ただし、相対比較には注意すべき点があります。
比較対象となる企業も、同じHypeの中にいる可能性があるからです。
MarvellやAstera Labsが大きく評価されていれば、それらと比較したCRDOは、まだ小さく見えます。
しかし、比較対象を含めてAIインフラ関連株全体の評価水準が上昇していたらどうでしょう。
高く評価された企業と比べて、相対的に安く見えているだけかもしれません。
もちろん、CRDOの利益が今後大きく伸びれば、現在の評価が正当化される可能性はあります。
一方で、想定したほど利益が伸びなければ、「まだ小さい」と思っていた時価総額が、実はすでに大きな期待を織り込んでいたことになります。
私はCRDOだけを追いかけていたのではありません。
AIインフラという成長市場の中から、相対的に爆発力があると考えた企業を選んでいました。
それには合理的な根拠があります。
しかし、AIインフラ株全体への期待が高まる中、その熱狂の一部に参加していたことも否定できません。
テクニカル指標は、投資先を決めるものではない
私は、25日線、75日線、MACD、RSIを確認します。
ただし、それだけで売買を決めているわけではありません。
私が主に投資している半導体やAI関連株は、数日後や数週間後の値動きだけを期待して保有しているものではないからです。
まず見るのは、その企業が長期的な成長市場のどこに位置しているのか。
その企業の技術や製品が、産業のどのボトルネックを解消するのか。
そして、その価値が売上や利益として現れる道筋があるのかです。
そのうえで、移動平均線からの乖離、MACDの方向、RSIが示す過熱感などを参考にしながら、
今すぐ買うのか。
少し待つのか。
一度に買うのか。
分けて買うのか。
を考えます。
私にとって、ファンダメンタルズは「何を買うか」を考えるためのものです。
テクニカル指標は、「いつ、どの程度買うか」を考えるための補助線です。
ただし、指標を確認しているからといって、自分が熱狂の影響を受けていない証明にはなりません。
分析は、熱狂を抑えるために使うことができます。
しかし、ときには、自分の買いたい気持ちを正当化するためにも使えてしまいます。
ARMでは、下落したところで追加しました
すべての銘柄で、上昇したところを追いかけているわけではありません。
ARMでは、最初に購入した後、株価が約2割下落したところで追加しました。
追加した株数は、最初に購入した株数より少なく抑えています。
株価が下がっても、ARMが半導体産業の中で果たす役割や、長期的な成長性に対する考えは変わらないと判断したからです。
一方、Marvellでは、最初の購入から約2割上昇したところで追加しました。
ただし、追加した株数は最初の半分に抑えました。
CRDOでは約4割上昇した後に、初回より多く追加した。
ARMでは約2割下落した後に、初回より少なく追加した。
Marvellでは約2割上昇した後に、初回の半分だけ追加した。
この違いだけを見て、どれが正しく、どれが間違っているとはいえません。
下落した株を買うことが、常に冷静な投資とは限りません。
業績や競争力が悪化している企業を、安くなったという理由だけで買い増せば、単なるナンピンになることもあります。
反対に、株価が上昇した後でも、業績の成長や競争優位性への確信が高まったことで追加するなら、合理的な順張り投資になることもあります。
問題は、以前より高い価格で買ったことだけではありません。
なぜその価格帯で買い、なぜその数量を買ったのかです。
株価の上昇が、分析への自信を強くする
株価が上昇すると、自分の分析が正しかったように感じます。
企業の成長性を調べた。
市場構造も考えた。
競合企業とも比較した。
そして実際に株価が上がった。
すると、最初は仮説だったものが、いつの間にか確信へ変わっていきます。
しかし、株価の上昇は、自分の分析が正しいことを証明しているとは限りません。
市場全体のHypeによって、同じ分野の企業が一緒に買われているだけかもしれません。
私は以前、成功体験がその後の判断を強気にする危険について、第20話「成功体験は、時に失敗よりも危険だった」で書きました。
これは、一つの銘柄の中でも起こります。
最初に買った後、株価が上がった。
だから自分の分析は正しい。
自分の分析が正しいのだから、もっと大きく買ってもよい。
こうして、株価の上昇とともに、投資金額も大きくなっていきます。
CRDOの追加購入には、企業分析や時価総額比較、テクニカル指標という理由がありました。
それでも、最初の購入後に株価が上昇したことが、自分の判断への自信を強くしていた可能性はあります。
「何を、いつ、どれだけ」を分けて考える
自分の投資を振り返り、熱狂管理には少なくとも三つの段階があると感じました。
一つ目は、「何を買うか」です。
市場の成長性、企業の技術、競争力、収益構造、そしてどのボトルネックを解消する企業なのかを確認します。
二つ目は、「いつ買うか」です。
25日線、75日線、MACD、RSIなども参考にしながら、購入するタイミングを考えます。
三つ目は、「どれだけ買うか」です。
どれほど将来性を感じても、一つの銘柄に投入できる金額には限界があります。
この三つは、同じように見えて別の判断です。
優れた企業を選べても、買うタイミングを間違えることがあります。
タイミングが悪くなくても、買いすぎることがあります。
そして、将来性への確信が強いほど、三つ目の「どれだけ買うか」が見えにくくなります。
CRDOのタイミングを分析していたことと、追加する数量まで十分に管理できていたことは、別の問題です。
熱狂管理とは、買うか、買わないかだけではありません。
どれだけ買うかを管理することでもあります。
分析していても、Hypeの外側には立てない
第23話では、
Hypeから逃げるのではなく、Hypeの中で何が現実なのかを見極める。
と書きました。
今回、自分の投資を振り返って気づいたことがあります。
企業や技術を理解しているつもりでも、Hypeの外側に立てるわけではありません。
理解していない投資家は、周囲の熱狂を根拠に買います。
一方、企業を分析する投資家は、利益成長、市場規模、時価総額、競争優位性などを根拠に買います。
両者は同じではありません。
それでも、分析する投資家も、強気な前提を置き、強気な企業同士を比較し、強気な将来を織り込んでしまうことがあります。
投資理由を説明できることは重要です。
しかし、説明できることと、その判断が正しいことは同じではありません。
私はCRDOを分析して買いました。
AIインフラ市場の成長性を考え、競合企業と時価総額を比較し、テクニカル指標も確認しました。
それでも私は、熱狂の中にいたのだと思います。
おそらく、冷静な分析か、熱狂による高値追いか、そのどちらか一方ではありません。
答えは、その両方です。
おわりに
利益の成長を見ることは重要です。
株価の数字だけを見るよりも、その企業が将来どれだけの利益を生み出す可能性があるのか。
そして、その利益成長に対して、現在の時価総額がどの水準にあるのか。
私はそうして投資先を選ぶようになりました。
しかし、将来の利益はまだ実現していません。
成長市場では、企業の利益が伸びるより先に、期待によって株価が上昇することがあります。
だからこそ、企業を分析するだけでは十分ではありません。
その分析に、その期待の中に、自分もいることを忘れてはいけません。
私は、熱狂管理が完成した投資家ではありません。
企業の将来性を調べ、時価総額を比較し、テクニカル指標を確認しています。
それでも、期待が強くなれば、高い価格帯で買い増すことがあります。
これから私が管理すべきなのは、熱狂するか、しないかという感情だけではありません。
何を買うのか。
いつ買うのか。
そして、どれだけ買うのか。
この三つを分けて考え、期待が大きくなったときほど、投資金額を冷静に確認することです。
私は熱狂を理解しようとしていました。
しかし、理解していることが、熱狂の影響を受けないことを意味するわけではありません。
そのことに気づくこともまた、私にとっての熱狂管理なのだと思います。

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