―ARMを売却する条件を、決算前に決めておく―
第25話では、NVIDIAの決算を前に、私はAI・半導体関連株への追加投資を見送りました。
NVIDIAだけでなく、AMD、ARM、Micron、Credoなど、すでに複数のAI・半導体関連株を保有しているからです。
新たに株を買わなくても、私はすでにNVIDIAの決算リスクに十分さらされていました。
だから今回は、決算前に追加投資をしない。
それが、第25話で出した結論でした。
では、すでに保有している銘柄については、どうするのか。
株価が下がったら売るのか。
それとも、そのまま保有するのか。
買わない条件を決めるだけでなく、売る条件も決めておく必要があります。
今回は、私が保有しているARMについて、
株価が下がったら売るのではなく、何が崩れたら売るのか。
を考えてみます。
買う理由は説明できても、売る条件は曖昧だった
私は半導体関連企業へ投資するとき、その企業が産業のどこに位置しているのかを考えます。
AI市場が拡大する。
データセンターへの投資が増える。
だからAI半導体関連株を買う。
それだけでは、投資理由として十分ではありません。
AIインフラには、GPU、CPU、HBM、ネットワーク、光通信、電力、冷却など、さまざまな構成要素があります。
市場全体が成長しても、すべての企業の売上と利益が同じように増えるわけではありません。
どこにボトルネックが生まれるのか。
そのボトルネックを解消する技術を、誰が持っているのか。
その技術が、どのような契約によって売上や利益へ変わるのか。
AIインフラの成長に伴い、ボトルネックがどのように移動していくのかについては、第17話「「AI半導体の次のボトルネックはどこか|マイクロン決算で市場が買ったもの」で考えました。
また、市場が成長するという話だけではなく、誰の売上が増え、どのような仕組みで利益が生まれるのかを見る考え方については、第21話「私は『儲かる話』ではなく、『儲かる構造』を見るようになった」で書いています。
しかし、買う理由を詳しく説明できても、売る条件まで具体的に決めていたとは限りません。
「長期的に成長すると思うから保有する」
この考え方は、一見すると筋が通っています。
ただし、「長期保有」という言葉は、ときに売却判断を先送りするための便利な言葉にもなります。
そこで私は、ARMをなぜ保有しているのかだけでなく、どの条件が崩れたら売るのかを考えることにしました。
ARMは、半導体産業の「通行料」を受け取ってきた
ARMは、NVIDIAやAMDとは少し異なる位置にいます。
NVIDIAやAMDは、自社ブランドの半導体を設計し、製品として販売しています。
一方、ARMは長年、CPUの設計技術や命令セット・アーキテクチャを、半導体企業や機器メーカーへ提供してきました。
ARMの主な収益源は二つあります。
一つは、ライセンス収入です。
顧客がARMの設計技術を採用するとき、契約に基づいて支払う収入です。
もう一つは、ロイヤルティー収入です。
ARMの技術を使った半導体が出荷されるたびに、その数量や契約条件に応じてARMへ入る収入です。
新しいライセンス契約が増え、その技術を使った製品が大量に出荷されるようになれば、時間差を伴ってロイヤルティー収入が増えていきます。
この仕組みの強みは、ARM自身が大規模な半導体工場を持たなくても、世界中で出荷される半導体から収入を得られることです。
特定の一製品を販売するのではなく、多くの企業の製品の中へ入り込む。
ARMは、半導体産業の中で通行料を受け取るような立場にありました。
私は、この事業構造に魅力を感じています。
スマートフォンのARMから、AIインフラのARMへ
ARMは長年、スマートフォン市場で圧倒的な存在感を築いてきました。
ただし、スマートフォン市場はすでに成熟しています。
端末の出荷台数が大きく増えなければ、従来型のARMコアを搭載する製品が増えるだけでは、飛躍的な利益成長につながりにくくなります。
そこで重要になるのが、より高いロイヤルティー率を得られるArmv9や、データセンター向けCPU、AI処理を含む高性能な設計技術です。
ARMの成長を考えるとき、私は単にARMの技術を搭載した半導体の数だけを見ているわけではありません。
重要なのは、
ARMの技術が、より価値の高い半導体へ移っているか。
ということです。
AIデータセンターでは、どうしてもGPUが注目されます。
しかし、GPUだけでシステム全体が動くわけではありません。
データの受け渡し、ネットワークやストレージの制御、アプリケーションの実行、推論処理の管理など、多くの場面でCPUが必要になります。
AIインフラが大規模になるほど、消費電力や処理効率も重要になります。
電力効率を強みとするARMアーキテクチャが、スマートフォンからデータセンターへ広がっていく。
これが、私がARMを保有している大きな理由です。
ARMの成長仮説は、まだ崩れていない
ARMの2027年3月期第1四半期の売上高は12億9,000万ドルで、前年同期比22%増加しました。
ロイヤルティー収入は7億1,500万ドルで22%増。
ライセンス収入は5億7,400万ドルで23%増でした。
さらに、データセンター関連のロイヤルティー収入は、前年同期の2倍を超えました。
ARMが新たに進めているAGI CPUについても、2027年3月期と2028年3月期の合計で20億ドルを超える顧客需要があり、すでに初期製品を複数の顧客へ納入したと説明しています。
少なくとも直近の数字を見る限り、
ロイヤルティー収入が伸びない。
ライセンス需要が弱くなる。
データセンター事業が収益につながらない。
新しいCPU事業の顧客が見つからない。
という状態ではありません。
むしろ、ARMがスマートフォン中心の企業から、AIインフラを支える企業へ変化するという仮説は、数字のうえでは前進しています。
したがって、株価が高値から下落したという理由だけで、ARMをすべて売るべきではないと考えています。
それでも、ARMの株価には大きな期待が含まれている
業績が好調であることと、株価が割安であることは同じではありません。
2026年9月1日のARMの終値は234.8ドルでした。
時価総額は約2,550億ドル。
一方、直近12カ月の売上高は約51億6,000万ドルでした。
単純に比較すると、時価総額は年間売上高の約50倍に相当します。
予想PERも100倍前後です。
もちろん、ARMの利益が今後大きく伸びれば、将来のPERは低下します。
問題は、現在の株価が「成長するかどうか」だけではなく、
どのくらい速く、どのくらい長く成長し続けられるか。
まで問う水準になっていることです。
売上高が22%増えた。
ロイヤルティー収入も22%増えた。
それ自体は立派な成長です。
しかし、売上高の約50倍まで評価されている企業には、「立派な成長」以上のものが求められます。
市場の期待を少し下回っただけでも、評価倍率が縮小する可能性があります。
ARMの場合、悪い決算でなくても下落することがあります。
良い決算であっても、それが株価に織り込まれた期待を超えなければ売られる。
ここが、成長企業への投資で最も難しいところです。
良い会社であることと、どの価格でも買ってよいことは同じではありません。
同じように、将来性のある会社だからといって、どのような評価水準でも持ち続ければよいわけではありません。
ARMが自らCPUを提供する意味
ARMには、もう一つ大きな変化があります。
従来のARMは、CPUの設計技術を顧客へ提供し、ライセンス料とロイヤルティーを受け取ることを中心としてきました。
しかし現在は、AGI CPUという自社ブランドの量産シリコンを顧客へ提供する事業へ踏み込んでいます。
これは、ARMにとって大きな収益機会です。
従来よりも多くの付加価値を、ARM自身が取り込める可能性があるからです。
一方で、新しいリスクも生まれます。
研究開発費が増える。
外部の半導体製造会社を通じて、必要な製造能力を確保しなければならない。
顧客の要求に応じて、製品を完成させる責任も増える。
そして何より、これまでARMの設計技術を購入していた顧客と競合する可能性があります。
従来のARMは、多くの半導体企業へ技術を提供する立場でした。
しかし、ARM自身が完成品に近いCPUを提供するようになれば、顧客から見たARMは、技術供給者であると同時に競争相手にもなり得ます。
この変化が成功すれば、ARMの売上と利益は一段上の水準へ進む可能性があります。
反対に、新しいCPU事業のために費用を増やしたにもかかわらず、十分な売上が生まれず、既存顧客との関係まで悪化すれば、ARMの強みだった事業構造を損ないます。
私はARMのAGI CPU事業を、単純な好材料とは考えていません。
大きな成長機会であると同時に、ARMの事業モデルを変えるリスクでもある。
そう考えています。
ARMの売却条件を四段階で決める
ARMの現状を整理すると、二つのことが同時に起きています。
一つは、事業が成長していることです。
もう一つは、その成長を株価がかなり先まで織り込んでいることです。
ここで判断を、
成長しているから、すべて持ち続ける。
割高だから、すべて売却する。
という二択にしてはいけないと思います。
第23話では、私は「リスクを取らない」のではなく、「取るリスクを選ぶ」ようになったと書きました。
売却についても同じです。
ARMの長期成長を手放すリスクと、高い評価倍率が修正されるリスク。
私は、そのどちらを、どの程度引き受けるのかを決めなければなりません。
そこでARMの売却判断を、四段階に分けました。
第一段階 保有を継続する
ロイヤルティー収入が二桁成長を続けている。
Armv9やCSSなど、より高い価値を持つ技術への移行が進んでいる。
データセンター向け収入が高い成長を続けている。
AGI CPUの顧客需要や受注が維持または拡大している。
主要顧客との関係に大きな変化がない。
現在のARMは、基本的にこの段階にあると考えています。
株価が下がっても、これらの条件が変わっていなければ、それだけを理由に売却はしません。
第二段階 追加購入を止め、一部売却を検討する
ロイヤルティー収入の成長が明確に鈍化する。
ライセンス収入や契約の勢いが弱くなる。
研究開発費が増えても、それに見合う売上や利益の成長が見えなくなる。
AGI CPUの量産や売上計上が延期される。
業績は成長していても、株価が利益成長を大きく上回って上昇する。
資産全体で、AI・半導体株への集中が大きくなり過ぎる。
このような黄色信号が一つ出ただけなら、すぐには売りません。
しかし、複数の黄色信号が重なった場合は、追加購入を止め、一部売却によって保有比率を下げることを検討します。
会社の将来性を否定するのではなく、期待の大きさに対して、引き受けるリスクを調整するためです。
第三段階 大幅に売却する
ロイヤルティー収入の成長が、複数の四半期にわたって一桁へ低下する。
データセンター向けの成長が想定以上に失速する。
AGI CPUの顧客需要や売上見通しが下方修正される。
研究開発費が増え続けても、利益成長につながらない。
AGI CPU事業によって、既存顧客との関係悪化が具体的に表れる。
会社の業績見通しが引き下げられる。
この段階では、単なる株価調整ではなく、成長期待そのものの見直しが始まった可能性があります。
一回の決算だけで判断するのではありません。
しかし、複数の悪化が同時に確認された場合には、「長期保有」という言葉で判断を先送りせず、保有株の大部分を売却することを考えます。
第四段階 完全に撤退する
大手顧客がARMアーキテクチャから、RISC-Vや独自設計へ本格的に移行する。
AGI CPUが既存顧客との関係を損なう一方で、十分な利益を生み出さない。
データセンター市場におけるARMの採用が、長期的に停滞または縮小する。
ライセンスとロイヤルティーを中心として築いてきたARMの競争力が、構造的に崩れる。
この状態になれば、株価が安くなったからという理由で保有を続けることはできません。
私が買ったのは、ARMという社名ではありません。
ARMが半導体産業の中で持つ競争力と、将来生み出す利益です。
その前提が崩れたなら、買値や含み益に関係なく、完全撤退を検討します。
ARMだけを見ても、ARMの保有比率は決められない
ARMの事業に問題がなくても、一部売却を検討する場合があります。
それは、資産全体に占めるAI・半導体関連株の割合が高くなり過ぎたときです。
私はARMだけを保有しているわけではありません。
NVIDIA、AMD、Micron、Credoなど、AIインフラの成長から恩恵を受ける複数の企業へ投資しています。
企業名も、扱っている製品も異なります。
しかし、AIインフラへの設備投資が減速すれば、これらの銘柄は同じ方向へ動く可能性があります。
銘柄を分けて保有していても、同じテーマに集中していれば、リスクはそれほど分散されていません。
ARM単体に問題がなくても、資産全体の半導体株への集中が大きくなり過ぎれば、一部を売却する可能性があります。
それは、ARMの将来性を否定することではありません。
一つの投資テーマに依存し過ぎないための調整です。
個別企業の将来性と、資産全体のリスクは分けて考える必要があります。
テクニカル指標は、売却理由ではなく警報装置である
私は25日移動平均線、75日移動平均線、MACD、RSIなども完全に理解しているわけではありませんが、素人なりに確認します。
ただし、それらだけでARMを売却するかどうかは決めません。
25日線を割った。
MACDがデッドクロスした。
RSIが低下した。
それは、短期的な需給や投資家心理の変化を示します。
しかし、ARMのロイヤルティー収入や競争力が、それだけで変わるわけではありません。
私にとってファンダメンタルズは、
なぜ売るのか。
を判断するためのものです。
テクニカル指標は、
いつ、どの程度売るのか。
を考えるための補助線です。
ただし、ファンダメンタルズの悪化を、市場が先に察知している場合もあります。
75日線を割った後、反発しても回復できない。
好材料が出ても、株価が上がらない。
以前の高値を繰り返し切り下げる。
このような値動きが続けば、市場が何を懸念しているのかを改めて確認します。
テクニカルは答えではありません。
しかし、自分の分析をやり直すための警報装置にはなります。
売買は「買うか、売るか」の二択ではない
投資をしていると、判断を二択で考えがちです。
買うのか。
売るのか。
しかし、実際には、その間にもいくつかの選択肢があります。
何もしない。
追加購入を止める。
一部を売る。
大幅に売る。
すべて売る。
同じ「売る」という行動でも、その理由は異なります。
株価が下がっても、投資仮説が変わっていなければ、何もしない。
将来性は変わっていなくても、割高感や不確実性が高まれば、追加購入を止める。
利益の成長以上に期待が膨らんだ場合や、資産全体で半導体株への集中が強くなった場合には、一部を売却する。
そして、買った理由そのものが崩れた場合には、すべて売却する。
変わったのは株価だけなのか。
それとも、投資の前提まで変わったのか。
そこを分けて考えたいと思います。
売る価格より、売る理由を決めておく
決算後に株価が上がれば、
「やはり保有して正解だった」
と言うことはできます。
株価が下がれば、
「もともと割高だったから仕方がない」
と説明することもできます。
しかし、それでは結果に合わせて理由を作っているだけかもしれません。
投資判断が正しかったかどうかは、直後に株価が上がったか、下がったかだけでは判断できません。
その時点で得られる情報を基に、自分の投資方針に沿って判断できたか。
事前に想定していた条件が、実際にどのように変化したのか。
それを後から検証できることの方が重要です。
だから私は、株価が大きく動く前に、ARMを売る条件を書き残すことにしました。
私は、ARMの株価が下がっただけでは売りません。
売却を検討するのは、成長の前提が崩れたとき。
利益の成長以上に期待が膨らみ過ぎたとき。
そして、資産全体でAI・半導体株への集中が大きくなり過ぎたときです。
株価は毎日変わります。
しかし、投資判断まで毎日変える必要はありません。
売る価格を決める前に、売る理由を決めておく。
それが、今回私がARMについて出した結論です。

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